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沈黙。ぐす、と私の嗚咽だけが耳に届く。
「……そんなメニューはありません」
店員は冷たく言い放つ。ズッキーン。ぼやけて見えていた世界が、まったく見えなくなった。
「ぎゃーっ」
わんわん泣いた。世界は不幸な私にとことん冷たい。
「ちょっと、うるさい……」
なら、見ず知らずのこの人に……とことん迷惑かけてやる!
「ぎゃー! たすけてー!」
ただならぬ泣き声に、住宅街にひっそりとたたずんでいたカフェは注目の的となる。何事だろうとご近所さんが集まった。
「迷子かしら」
「誘拐かしら」
「ひどいわねー、あの子、見て見ぬふりよ?」
私の駄々こねに様々な憶測が飛ぶ。店員はガタガタ何かを動かしていたが、やがて音がやみ、目をこする私の手を握った。ぐいっと強い力で引っぱられて、ドアの中へ連れ込まれる。
「いだーいっ」
「黙れ」
「いじめられるーっ」
バタン、乱暴にドアが閉まった。
「お前、何のつもりだ!」
怒られた。私は、ぐすっと鼻をすする。
「こわいー」
店員の顔は見えないし、色しか判別がつかないけど、イライラしていることは雰囲気でわかった。優しくしてよー、私はぐちゃぐちゃの顔で言った。
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