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ふわっと湯気がのぼる。
「……これは?」
温かな白いマグカップに触れた。
「カフェオレ」
「カフェ……オレ?」
引っ込んだはずの涙が、どうと押し寄せる。
「な、なんだよお前っ! どっからそんなに涙が出るんだ」
「……カフェオレは、あいつが好きだった」
「……あいつ?」
太郎を押しのけて、水樹さんが私の隣に座る。
「何があったの?」
優しい言葉。
「僕に話してみない?」
「水樹、」
「太郎は黙って」
だから太郎じゃねえって……仏頂面で太郎は店内のモップがけを始めた。
「……ずっと、好きだったの」
マグカップを両手で包む。
「好きだったの、に」
ぽろぽろ、涙がカフェオレに入る。
「……ひと口、飲んでみて?」
水樹さんはそっと、カフェオレをすすめる。カフェオレ……飲むとあいつを思い出すから好きだった。ゆっくりゆっくり、口に近づける。
――コクン。
喉が鳴った。私の中へ流れ込む甘いカフェオレ。じんわり私を温める。ほっと息が漏れた。
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