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「……お前を女と見たことがないって言われた」
ぐす、鼻をすする。
「ていうか、お前マジないわーって言われた」
いつの間にか涙は止まっていた。だんだんと目の前がクリアになる。
「それは、ひどいね」
白くて長い指。きれいだなあ。テーブルの上に組まれた指先がなめらかに動く。ゴクゴクゴク。カフェオレを飲み干した。
「おいしい」
ぷはっと口を拭う。飲むのをためらっていたせいか、ぬるくなっていて火傷をすることはなかった。
「私は女だもん」
「そりゃお前、その恰好で男って言われたらひくわ」
「うるさいーっ」
「お前に言われたくないわっ」
私の言葉に太郎がキレる。カフェオレが喉を通り過ぎた。ぼうとする。太郎は、突然黙り込んだ私に少し驚いたようで、うろたえている。私はマグカップから手を離した。そして……太郎に向って頭を下げる。
「ごめんなさい。誰でもいいから優しくしてもらいたかったの」
セミロングの髪が、邪魔。顔をあげるときに、そっと髪をよける。
「ごめん!」
目を見て、謝った。真っ黒なきれいな瞳。戸惑いのゆらめき。
「……なんで偉そうに謝るんだ」
ぷん、と顔をそむけた。
「さっきまで泣いてたと思ったのに。変な女っ」
明らかな動揺。黒い制服に、長い白のエプロン。私は太郎のエプロンをつかんだ。
「とりあえず、私を雇って!」
「いやだ!」
「なんで!」
「俺はただのバイトだアホ!」
「……ぷっ」
水樹さんがこらえきれずに笑った。
「君、最高におかしいよ」
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