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――おかしい。
「……どっちの意味で?」
「どっちも」
くすくす笑う様子に、目が離せなくなる。優しい表情は、見ているだけで気持ちが和らぐ。綺麗なミルクティ色の髪、白い肌、優しげなたれ目、美しい……手のひら。私は彼の手に触れたくなった。触れたら、同じように笑える気がした。でも急に掴んだら、それこそ「頭の」おかしい人になってしまうと思い、ぎゅっと耐える。そして、カップに視線を落とした。
「水樹さん、このカフェオレを淹れた人を教えて!」
「やだよー、営業時間過ぎたもの」
店内に掛かっている時計を見ると、5時を3分過ぎたところだった。
「優しくない……」
私はぶうたれる。
「営業時間内なら優しくするよ、お客様」
水樹さんは、太郎とは違う意地悪な表情を見せる。
「カフェオレ飲んだんだから、帰れば?」
「まだ飲み終わってないもん」
マグカップにはほんの少しだけ……申し訳ない程度にカフェオレの茶色い液体が残っていた。
「あっそう。僕はあがるよ、あとは太郎に任せる」
「ちょ、俺をひとりにするのか!? この女とっ!」
私はムッとして「この女とは何よ」とつぶやく。
「僕は残業はしない主義なの。同じ高校のよしみで付き合ってやりなさい」
「同じ……高校?」
私はゆっくりと、太郎を見上げた。
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