涙の止め方

9/11
2340人が本棚に入れています
本棚に追加
/445ページ
 真っ黒の瞳が忌々しそうに私を見る。ツンツンの剛毛な黒髪、少し灼けた肌、意志の強そうな眉毛……まんまるの瞳。見たことあるかなあ? 首を傾げる。 「何年生?」 「知るかっ」  太郎はガシガシ、モップをかけていた腕を動かす。ネームプレートには「ヤマダ」と書かれていた。やまだたろう、知らないなあ。 「早く帰れよ」  太郎は吐き捨てるように言う。私は唇を噛み締めた。本当に意地悪。 「林田要」 「は?」 「林田要を知ってる?」 「なんだよ、お前は本当に急だな」 「そいつ、私が好きだった人」  こんなこと言ったところで意味がないのはわかってる。でも誰かに知っていて欲しかった。 「高校入ってから今日までの二年間、片思いしてたの」  太郎は何も言わず、机の上に椅子を乗せる。 「私は、本当に……好きだった」  涙よ止まれ! もう流してたまるかと歯を食いしばる。鼻がツーンとした。 「聞いてくれてありがとう!」  カフェオレの残りを吸うように飲み、鞄を手にする。 「いくら?」
/445ページ

最初のコメントを投稿しよう!