さよならの形

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「うわぁ! 市内が一望できるんだ」 横に並んで田辺さんが立った。 「ヤッホー!」 「いきなりベタですね」 「やっぱり定番は抑えておかないとね」 展望台はわりと広くて、いくつかのベンチがあった。 その一つに腰掛けると、コンビニのお弁当を広げた。 私たちの他には、家族連れが一組とおじいちゃんが2人いるだけだった。 「こんなにいい場所なのに 人は少ないんだね」 「そうだね、前きたときもこんな感じだったよ」 「穴場だね?」 「不倫デートのね」 「不倫?」 「あ…違うか。まだ何もしていないから」 「何かしたら不倫なのかな?」 「多分ね。今のこの状態はまだ近所の知り合いと同じだよ。 もっとも、他人から見たら 何かしたとかしないとかわからないし、どっちにしても不倫に見えるだろうね」 「不倫か…」 私は考えこんでしまった。 不倫なんて言葉は、私にはずっと他人事だったのに今こうして不倫している。 いや、まだ何もしていないから違うのかな? でも夫に見られたりしたら、やっぱり不倫なんだろうなぁ。 感覚としては、昔からの友人に会ってるみたいなんだけど。
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