さよならの形

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私はかいつまんで、夫との喧嘩のことを話した。 せっかくの楽しい時間の終わりにこんな話はしたくなかったけど、話さないのも嫌な気がした。 誰かに話して笑い話にしてしまいたかったのかもしれない。 「そうか…うまく言えないけど、疑い深い人は何を言っても聞き入れてくれないと思うから あきらめるしかないかな?」 「あきらめるか…」 ガチャ!と車のドアが開いた。 「はい、乗って」 田辺さんがドアを開けてくれた。 私が乗り込むと、田辺さんも続いて乗り込んできた。 「え?…」 どうしたの?と言おうとした時 田辺さんの顔が近づいた。 「!!!」 口づけた。 ほんの一瞬だった。 目を閉じる間もなく、唇は離れた。 でもそのまま 私の頭を胸に抱き寄せた。 「…」 「元気出して…。愚痴ならいつでも聞くから。いつも味方だから安心して」 そう言いながら、私の髪を撫でてくれた。 うれしかった。 泣いちゃうくらいうれしかった。 だけど視界のすみで、時間を確かめた。 急がなきゃ! 私は田辺さんの腕の中からすり抜けた。 「びっくりしちゃった。 でも…うん、うれしい…ありがと」 田辺さんはうなづくと、運転席に移動した。 田辺さんの突然のキスはうれしかった。 それでも私の頭の中では、幼稚園までの時間を計算し始めていた。
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