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「また会えるかな?」
「うん、きっと」
それだけ言うと私は田辺さんと別れた。
少し名残惜しいと思ったけど、お迎えに遅れるわけにはいかなかった。
冷たい女だと思われたかもしれないな…。
ふとそう思ったけど、慌てていたから仕方なかった。
幼稚園には少し遅れて着いた。
田辺さんと別れて急いだけれど、家に帰って着替える時間はなかった。
いつものお迎えよりめかしこんだ私に、知り合いの視線が集まった。
私は気づかないふりと、なんでもないふりで歩美のクラスまで歩いた。
「あっお母さん♪」
私を見つけて歩美が駆け寄った。
「お待たせ」
「あらぁ!歩美ちゃんママ
今日はどちらかにお出かけでしたの?」
同じクラスのお母さんが話しかけてきた。
「えぇ、友達とランチに行ってきました」
作り笑いで答えながら、足早にその場を立ち去った。
幼稚園では
『歩美ちゃんママ』
と呼ばれる。
みんな子供の名前にママを付けて呼び合う。
確かに、そのほうが子供たちにもわかりやすくていいけど
ここでは
『聡子』ではなく
『歩美ちゃんママ』
だということが、私には居心地が悪かった。
歩美ちゃんママという枠にはめ込まれているような、そんな感じが窮屈だった。
当たり前なのだけど。
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