さよならの形

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病室の窓は さっき来た夫が大きく開けてくれた。 夏が終わり 風はもう秋の匂いがする。 私は3ヶ月前事故にあい 足に大怪我をした。 右の太ももにはまだ金属のボルトが入っている。 今はそのボルトを抜くために 一度退院したこの病院に再入院した。 内科的な入院ではないので 体調もよく食べてばかりいて 体重は増加の一途だ。 2人部屋のもう一つのベッドは今は空いている。 そのベッドの上に さっき夫が持ってきて 口論のもとになった 携帯電話料金の明細書が散らばっていた。 「ふぅ…片づけますか…」 私は誰に言うともなく言ってから 明細書を拾い集め封筒に戻すときふと目に留まった文字。 『パケット通信料』 夫がキレた原因だ。 私のパケ代が異様に高いと抗議してきたのだ。 私は 「ゲームや歌をダウンロードしたからよ」 と答えたが夫は信じない。 私が怪しい出会い系サイトをやっていると 思い込んでいる。 本当にそんなのはやっていないけど 疑り深い夫には どう説明しても通じない。 あまりの腹だたしさに 私は涙が出た。 出会い系サイトなんかやってない。 ただあの人に連絡がとりたいだけなのに…。 疑り深くて嫉妬深い夫には 言えるはずもなかった。
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