さよならの形

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夫は世間的には物わかりのいい夫で通っているので 私が携帯電話を持つことには 反対しなかった。 それまで携帯を持っていなかったけど 特に不便も感じていなかったが いざ手にしてみれば 楽しくて仕方なかった。 初めは友達とのメールのやりとりからで 次は好きな曲をダウンロードして 携帯の扱いにもどんどん慣れていった。 ある日 夫が唐突に言った。 「お前、最近なんか浮かれてるけど 男でもできたんじゃないのか?」 私は耳を疑った。 「浮かれてるってどういうことよ! 男って何よ!」 「化粧は派手になったし いつも携帯持ってニヤニヤしてるじゃないか」 その時はまったく 身に覚えがなかったので 私は携帯を差し出した。 「さぁ見てよ! 今やってたのは昔好きだった曲を探してたの。 男とかなんとか言うなら 好きなだけ調べたら? 化粧が派手って 口紅がなくなったから新しいのを買っただけ!」 テーブルに出された私の携帯を 夫は手にとって調べだした。 なんのためらいもなく 私の携帯のメールや アドレス帳を開いて探っている。 夫婦とはいえ 携帯チェックするなんて プライバシーの侵害だと思う。 でもこの人はやる。 まるでそれが常識だと言わんばかりの 堂々とした態度で。
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