さよならの形

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夫が仕事 歩美が幼稚園の平日の昼間 私は田辺さんと会う約束をした。 大きなデパートの駐車場で待ち合わせた。 立体駐車場の屋上で お互いの車のナンバーを教えて…。 私は約束の時間より 15分早く到着した。 私を写真でしか見たことがない田辺さんに 幻滅されたくなくて 少しでもきれいに見えるように 念入りにメイクを直した。 サイトで知り合った男性に会うなんて 全く初めての経験なのに そんなに後ろめたさはかんじなかったし めちゃくちゃな緊張もしなかった。 何度もやりとりしたメールで もうずっと前から知り合いだったような 懐かしいような そんな感覚があった。 約束の時間になった。 ふと空いていた隣のエリアに車が入った。 私は心臓がキュッとなった。 きっとこの車に違いないと思うのだけど 振り向く勇気がまだない。 バタンとドアがしまった。 私は下を向いている。 コンコン! ガラスがノックされた。 私はゆっくり顔を上げた。 「はじめまして、田辺です」 窓越しに男性がニコッと挨拶をしてきた。 私もドアを開け外に出た。 「はじめまして、聡子です」 私は下の名前だけを名乗った。 夫と同じ姓を名乗るのは気がひけたからだ。 それは 夫の知らない男性と会うということの 背徳感からかもしれない。
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