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田辺さんはキョロキョロと周りを見渡した。
「こんな場所を指定してごめんね。
どこがいいかさっぱり見当がつかなくて」
大きめのサングラスの下に
優しそうな目が見えた。
「私もここならたまに来るから、車が停めてあってもおかしくなくていい場所だと思うけど」
「そうか、それならよかった。でもここで立ち話もなんだから、どこかに移動して散歩でもしよう」
「はい
あ…じゃあ前に言ってた、とっておきの散歩道に行ってみたいな」
「わかった、案内するよ」
私の車はそこに置いておくことにした。
田辺さんの車は大きめのステーションワゴンで、私は少し迷ったけど
後部座席に乗った。
夫がたまに取引先と商談のために、ここから近い会社に来ることを聞いていたからだ。
どこで見られるかわからないから、用心にこしたことはない。
「仕事の書類とかのってるけど、どけちゃってね」
田辺さんがルームミラー越しに言った。
「じゃあ端に寄せておきますね」
車はゆっくりと走り出した。
立駐を出て交差点を左に行く。
確かこっちは、県境にあるスカイラインがある方向だ。
昔、夫と付き合っていた頃、
夜景を見に行ったことがある。
あの時は散歩道なんて気づかなかったなぁと、ふと思い出した。
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