さよならの形

8/35
前へ
/162ページ
次へ
田辺さんはキョロキョロと周りを見渡した。 「こんな場所を指定してごめんね。 どこがいいかさっぱり見当がつかなくて」 大きめのサングラスの下に 優しそうな目が見えた。 「私もここならたまに来るから、車が停めてあってもおかしくなくていい場所だと思うけど」 「そうか、それならよかった。でもここで立ち話もなんだから、どこかに移動して散歩でもしよう」 「はい あ…じゃあ前に言ってた、とっておきの散歩道に行ってみたいな」 「わかった、案内するよ」 私の車はそこに置いておくことにした。 田辺さんの車は大きめのステーションワゴンで、私は少し迷ったけど 後部座席に乗った。 夫がたまに取引先と商談のために、ここから近い会社に来ることを聞いていたからだ。 どこで見られるかわからないから、用心にこしたことはない。 「仕事の書類とかのってるけど、どけちゃってね」 田辺さんがルームミラー越しに言った。 「じゃあ端に寄せておきますね」 車はゆっくりと走り出した。 立駐を出て交差点を左に行く。 確かこっちは、県境にあるスカイラインがある方向だ。 昔、夫と付き合っていた頃、 夜景を見に行ったことがある。 あの時は散歩道なんて気づかなかったなぁと、ふと思い出した。
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1131人が本棚に入れています
本棚に追加