クレイドル

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「聞こえた? 貴方なんて知らない」 ぼくはまた、混乱しつつあった。 メモリーは事実であり、それなら間違っているのはすみれのはずだ。 すがるように問う。 「二年前まで、ここに一緒にいたよね」 「知らない」 「でもぼく、すみれと」 「知らないって言ってるでしょう」 平坦な声に、ぼくはびくりと身体をすくめた。 ――ああ、ぼくはまた失敗したのだろうか。 感情が、読めない。 理由が、わからない。 ‥‥怖い。 「出てって」 一歩、二歩。 後ずさると、背中にドアが当たる。 「ごめん、ぼく‥‥」 すみれから目が離せないままドアに手をかけて、開けた。
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