ダウト

3/7
前へ
/18ページ
次へ
また無視されるのだろうと思いながらも、すみれの部屋の前に来た。 白いドアはしっかり閉まっていなかったらしく、ノックすると少し開いた。 声は十分聞こえる。でも、お互いの姿は見えない。 「すみれ‥‥入っていい?」 返事はない。 気配だけで、すみれが身じろぎしたのを感じ取る。 「すみれ」 拒絶されている。 ぼくはドアの綺麗な白を見つめて、この前のように立ち尽くす。 焦りがない分だけ、悲しみがしくしくと心を刺した。 それでもどうにかしてすみれの苦しみに触れたくて、立ち尽くす。 「‥‥‥‥」 すみれの脳を走る電気信号を、そのままぼくの回路に流せればいいのに。 ぼくの感情なんて紛い物かもしれないけれど、理解してくれるヒトがいるという幻想は、自分を確かにしてくれる。 みんなそうやって生きているから、それは許された嘘なんだろう。 「すみれ」 「‥‥ドア、閉めて」 ぼくはうなだれ、言われるままにドアノブを回して、すみれの部屋を外の世界から遮断した。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加