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すみれはこちらを――女の子を、あの冷たい視線で睨んではいなかった。
ただ呆気に取られたように大きな眼を見開いている。
「来なさい。家に」
「……誰」
女の子は腰に片手を当てて、言い放つ。
「さくら、よ。金谷さくら、貴女の従姉妹」
その事実を誇るような名乗りだった。
不敵な、不適ですらあるような笑みが、すみれを威圧する。
――存在を、刻む。
「そんな人は知らない」
「そうね、私だって貴女なんて知らなかったわ」
「……?」
すみれは一旦伏せた顔を上げる。
表情に、明らかな戸惑いが浮かんでいた。
「名前くらいは知ってたけど、外国で暮らす従姉妹なんて興味なかったもの」
「なら出てってよ」
「あら、今はあるのよ? 興味」
さくらはにやりと笑ってみせた。
あからさまに、人をからかう態度だ。
すみれの戸惑いに、とげのある苛立ちが交じる。
「貴女、可哀相に記憶喪失なんでしょう?」
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