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「だったらなに」
「面白いじゃない。両親を亡くして記憶喪失なんて」
ぼくとすみれは、思わず数回まばたきをした。
すみれが唇を震わせる。
「おもしろい……?」
「そうよ」
ぼくはまたフリーズ状態に逆戻りだ。
両親を亡くして記憶喪失の従姉妹が、『面白い』……。
理解できない。
できる気がしない。
彼女は嘘をついているのかもしれない。そうであってほしい。
「そういう生物のそういう年頃なのよ、私」
「……なに、それ」
「大人は知ってる。すみれももう少し大きくなれば解るわ」
彼女は固まっているぼくに、嘲るように笑いかける。
それまで、ここにいないものとして扱っていた、ぼくに。
「貴女はちゃんと、ヒトだもの」
――そういうものだろうか。
ぼくだって大きくなることはできる。九歳の今は、四歳の頃より外側も内側も成長している。
……ぼくはすみれと同じねじを巻かれて、同じ時を歩いてきたと思っていた。
それが、パパに保証された道しるべだと思っていた。
「出てって……あなた、きもちわるい」
「そうね、今日はこれで。明日も来てあげるわ」
いやにあっさりとドアに手をかける彼女。
去り際に、満足そうな呟きを残して。
「解ってるじゃない……ヒトって、気持ち悪いものよ」
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