ダウト

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ぼくは怖かった。 だから、身体の内側に逃げ込んだ。 フリーズ。 人工頭脳だけがくるくる活動する。 ――『大人は知ってる』。 パパは大人だ。パパも知っているだろうか。 さくらの異様な世界を、ぼくに教えてくれるだろうか。 ――『貴女はちゃんと、ヒトだもの』。 アンドロイドのぼくは、それを理解できるだろうか。 理解しなければならないだろうか。 要求される期待に、応えられるか否か。 さくらは無理だと言った。 僕の予測も同じ。 「ごめんなさい‥‥」 回路の隙間に火花が飛び、1と0で創られた擬似感情がショートする。 痛い。 ――これは感情ではなく、機械としてのぼくが壊れるという警告だ。 それは死なんかじゃなくて、もっと静かで、当たり前で、無機質な。 怖いよ。 「‥‥たすけて、パパ」 ぱちり。 そんな、音。 回路が負荷にショートして、不可能なリープをして、ぼくは気付いた。 ぼくに嘘をついていたのは、ぼくだった。 ヒトは怖い。 ヒトは解らない。 ヒトは‥‥愛しい。 創造主の、神様のためなんかじゃない。 パパのためじゃない。 ぼくはアンドロイドであるぼく自身の望みとして、ヒトになりたかったんだ。 なら今は、起動しなきゃ。 「すみれ!」
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