クレイドル

6/11
前へ
/18ページ
次へ
四階にあるぼくの部屋の窓からは、研究所に来る自動車がよく見える。 普段は朝夕以外ほとんど出入りがないので、すみれが乗ってきたらしい車はすぐにわかった。 昼下がりに一台だけ来た、飾り気のない、シルバーの小さな車体。ぴたりと玄関に着けてあるので、すみれの姿は確認できなかった。 それからすぐに、内線が鳴る。 「ノナ、すみれが来たから応接室まで来なさい」 パパの声は気持ち緊張している。それとも、ぼくが緊張しているからそう聞こえるのだろうか。 応接室の前に着くと、いきなり扉が開いて、知らない男の人と女の人が出て来た。 ぼくは思わず二、三歩後ろに下がる。 本当はあいさつしなければいけないのに、声が出てこない。 「引き取るしかないんだろう?」 「ええ……でも、前はあんな子じゃなかったのに」 ――二人は、ひどいマイナスの感情をあらわにしていた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加