クレイドル

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手を離したドアが音を立てて閉まる。 すみれは白いソファに埋もれるように座って、うつむいていた。 「こんにちは‥‥」 反応がない。 ぼくは困って、ドアの前に立ち尽くす。 九歳のすみれは当たり前だけど成長していて、でも記憶の中のすみれの面影を残しているのに。 小さなすみれはあまりに鮮やかで、目の前の女の子に重ねると、違和感を感じてしまう。 「すみれ‥‥だよね?」 顎の線で切り揃えた黒髪をぱっと乱して、すみれは顔を上げた。 記憶と同じ顔。一つ一つのパーツがなめらかで、賢そうな瞳だけが強い。 でもその視線は、ぼくを通り越してドアを見つめていた。 「だれ」 ぼくも会わない間に成長したから、わからないのだろうか。 「ぼく、ノナだよ。久しぶりだね」 「そんな子知らない」 すみれはまた顔を伏せる。
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