94人が本棚に入れています
本棚に追加
手を離したドアが音を立てて閉まる。
すみれは白いソファに埋もれるように座って、うつむいていた。
「こんにちは‥‥」
反応がない。
ぼくは困って、ドアの前に立ち尽くす。
九歳のすみれは当たり前だけど成長していて、でも記憶の中のすみれの面影を残しているのに。
小さなすみれはあまりに鮮やかで、目の前の女の子に重ねると、違和感を感じてしまう。
「すみれ‥‥だよね?」
顎の線で切り揃えた黒髪をぱっと乱して、すみれは顔を上げた。
記憶と同じ顔。一つ一つのパーツがなめらかで、賢そうな瞳だけが強い。
でもその視線は、ぼくを通り越してドアを見つめていた。
「だれ」
ぼくも会わない間に成長したから、わからないのだろうか。
「ぼく、ノナだよ。久しぶりだね」
「そんな子知らない」
すみれはまた顔を伏せる。
最初のコメントを投稿しよう!