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『じゃあ、サイドはあごのラインより長めで…後ろは丸い感じで……』
『あ、はい。さくっと行っちゃって下さい。もー成田さんにお任せしますんで』
『あらそぉ?巴ちゃんのロングヘアーも好きだったんだけどねぇ~アタシは~』
鏡に映った自分をとにかく変えたかった。
その一心だった。
いつも私を担当してくれる、成田さんはオネェだけど腕は確かな美容師さんだ。安心して任せられる。
シャンプー台へ移動して、鎖骨を軽く越える長さの髪が、成田さんの手で洗われていく。鼻歌なんて歌いながらも、成田さんのシャンプーはプロそのものだ
。最高。
『しかしねぇ~。ビックリしちゃった。アタシ。』
成田さんの鼻歌が、なぜかおにゃん子クラブに変わった。セーラー服を脱がさないで…?
私はちょっと驚きながらも、成田さんの話に乗った。
『何がですか?』
『だってぇ!巴ちゃんのロングヘアーはウチの店でも有名だったのよぉ!ホントに綺麗に伸ばしてたのに!アタシも巴ちゃんぐらいの年の時にこれくらい伸ばしたかったわ~なんていつも思ってたのよぅ!どうしてショートにしちゃうの?』
勢いよく喋りだした成田さん。疑問に思うのも当然だと思う。身長166cm。体重90kg。しかも大学浪人、留年を経験済みのダメ大学生…。
そんな私が、唯一自慢出来るもの、それがこの髪だったんだから。
枝毛一つなく、成田さんが綺麗に伸ばしてくれたってのも大きい。
『ね~ぇ、巴ちゃんてばぁ。どうして?』
『…簡単なことですよ。私、好きな人が出来たんです……。。』
驚きの声をあげる成田さんを笑いながら、私は総史の事を思い出していた…。
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