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この世界は歪み始めていた。
その歪みは普通の日常を飲み込み、俺達の運命までをも飲み込もうとしていた。
「ふぁぁ…ねみぃ…」
赤色のツンツン髪に丈が腹くらいまでしかない長袖の服、その下には黒のシャツを着た17くらいであろう少年―不知火 焔雅<シラヌイ エンガ>は芝生に寝ころびながら、大きな口を広げ欠伸をしている。
「…俺って究極な暇人だなぁ…」
ぼー、と夜空を見ていた。
「ま、わるくはないけどさ」
今の暮らしはそれなりに満足している。平和なものだ。
今が続けばいい、と考えていると、遠くから分厚く暗い雲が流れてきた。
「やべ、さっさと帰るか」
焔雅は素早く立ち上がり、走って自宅へと向かった。
「ぎりぎりセーフ…」
空は既に真っ暗で、息を切らした焔雅は自宅の扉を前に立っていた。
扉の向こうから足音が聞こえてくると、げっ、と思うと同時に扉が開かれた。
「焔雅…こんな時間まで何やっていたのかしら?」
時計の針を見るに、夜の10時近かった。
「ね、姉ちゃん…笑ってるけど、怖い…」
少年を焔雅と呼ぶのは姉の美苑<ミソノ>で、この家には焔雅と美苑しか住んでいない。
顔は笑っているが、どこか怖いオーラを出している美苑を見て、冷や汗が出てきていた。
「心配したじゃない、ね?」
「ごめんなさい!」
そんな姉に向かって、バシッと土下座をした。
肩を叩かれたので顔を上げると
――バシッ
思いっきりビンタが飛んできた。
「べふっ!…ってぇ~…」
叩かれた頬をさすっていると
「早く入りなさい。ご飯、冷めてるわよ?」
ちゃんと優しい笑みでおかえり、と言ってくれた。
「ただいま、っと」
靴を脱ぎ、家に上がった。そして、夜飯を食べて、風呂に入り、ベッドに寝ころんだ。これが平和な日常の最後になるとは知らずに眠りについた。
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