危険な好奇心

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俺は急に誰かに見られているような気がして周りを見渡した。いや、『誰かに』では無い、中年女に見られているような気がした。 山特有の『静寂』と自分自身の心に広がった『恐怖』がシンクロし、足が震えだす。 立ち止まる俺を気にかける様子無く、慎はあの木に近づきだした。 何かに気付き、慎はしゃがみ込んだ。 『ハッピー・・・』 その言葉に俺は足の震えを忘れ、慎の元に歩み寄った。 ハッピーは既に土の一部になりつつあった。頭蓋骨をあらわにし、その中心に少し錆びた釘が刺さったままだった。 俺は釘を抜いてやろうとすると、慎が『待って!』と言い、写真を一枚撮った。 慎の冷静さに少し驚いたが、何も言わず俺は再び釘を抜こうとした。 頭蓋骨に突き刺さった釘をつまんだ瞬間、頭蓋骨の中から見たことの無い、多数の虫がザザッと一斉に出てきた。 『うわっ!』 俺は慌てて手を引っ込め、立ち上がった。 ウジャウジャと湧いている小さな虫が怖く、ハッピーの死体に近づく事が出来なくなった。 それどころか、吐き気が襲って来てえずいた。 慎は何も言わずに背中を摩ってくれた。 俺はあの夜、ハッピーを見殺しにし、又、ハッピーを見殺しにした。 俺は最高に弱く、最低な人間だ。
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