若菜 晋一郎

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「ちっ。すばしっこい奴だな。そんな逃げ腰では私と戦うことなど出来ないぞ」 「だから俺は別に戦うつもりはないっての!!」 「黙れ"敵"が!」 少女が突貫してくる。 晋一郎は避けようと右に飛ぼうとするが、そこで自身の異変に気付いた。 「あ、足が動かない!?」 足下に視線を落とすと、少女の腹から零れでた血がまるで氷のように固まり、晋一郎の足を捕らえていた。 「死ね!!」 「くっ!!」 向かう刃が晋一郎の頬を掠める。 だが、その戦果として少女の右手首を的確に掴んだ。 「おい止めろ……って言ってんだろ」 少女の顔を向き合わせることで晋一郎は初めて気付いた。 「離せ離せ離せ離せ」 顔が紅潮し、瞳の焦点が合ってない。 恐る恐る、少女の額に手を当てる。 「なんつー熱だ。こりゃやべえぞ。おいこれ以上は―」 「離せ離せはな……がはっ!!!」 まるでペンキでもぶちまけたようだった。 少女の口から放たれた紅い液体が晋一郎を容赦なく汚す。 「まだだ…まだ私は…戦える……のに………くそ……情け…ない…な」 少女の目がぐりんと上に向き、そして体躯が地面に伏す。 それと同時に、固体と化していた血も元に戻り晋一郎は自由となる。 だが、晋一郎は動かない。 いや、動けないのだ。 健全に生きてきた少年にしてみれば、あまりにも凄惨な現場だろう。 「………」 足下を見る。 横たわる少女は死んでしまったのだろうか。 「興味ない」 少しの吐き気を催し、血だまりの中に晋一郎も倒れ伏した。
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