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次の朝。
晋一郎は悪い夢でも見ていたかのような汗をかき、うなされながら目を覚ました。
汗をかくには程遠い季節なのだが、いやはや人間とは不思議な生き物である。
薄暗い空間に一人の少女がいる。
黒いマントで顔から下を覆い、蒼白い杖を携えた少女だ。
晋一郎はゆっくりと彼女に近付く。
少女が振り向いた。
はだけたマントの下は真っ赤に染まっており、何か所もの刺し傷からは血が噴き出ている。
少女は痛がることもせず、くすりと笑う。
そして、刃物と化した右腕を振り上げる。
「ッ!!」
次の瞬間、先ほどまでの映像は消え、見慣れた天井が視界に入った。
「なんつー夢。てか…夢? え? 昨日のは……夢? 現実?」
重い身体を起こし、辺りを見回す。
散らかった部屋。
埃っぽい部屋。
汚いが、いつも通りの風景。
(やっぱり昨日のは夢か)
晋一郎は安堵する。
あんな非現実なことが起こる訳がない。
晋一郎はそう確信した。
が、その矢先だった。
水が流れる音と共に、WCと書かれた扉が開かれる。
「む。目覚めたか。おはよう」
晋一郎の夢で、そして現実でも暴れ回った少女だった。
晋一郎は思わず身構える。
「安心してくれ。私はもう正常だ」
子供にしては妙に言動が大人びている。
「だからそう構えなくていい。貴方を取って食うつもりなんてないぞ」
ショートヘアを掻きあげる少女。
「お、お前は一体…」
「む。私の正体も踏まえて貴方には話がある。勿論昨夜の非礼の数々も、な」
ニッコリと少女が笑うが、そこに子供らしさは微塵も感じなかった。
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