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脈打つように魔力が制服に注がれる。
回帰に伴う過程で制服がおぼろげに霞んでゆく。まるでビデオの逆再生でも見ているような現象だった。
「回帰とは指定した物質の時間軸を操作する極めて初歩的な魔術。それを醤油に施してある」
そして、しばらくすると制服に変化が起こり始める。
少しずつだが、醤油のかかった箇所が元に戻ろうとしていた。
「制服に付いた醤油を時間軸において五分後退させる」
制服の黒ずみが完全に消え去った時、回帰は終了となる。
醤油差しの醤油は元あった台所で再構築される。
「まあこんなところだ。この部屋も今と同様に時間軸を定めて回帰したんだ。言わば再構築だな」
綺麗になった制服を晋一郎に手渡す。
受け取った晋一郎は、くまなく調べるがどこにも汚れはない。
「確かに落ちてる。クリーニング屋も驚きの仕上がりだな」
「クリーニング屋と並べられるのはどうかと思うが――とりあえずこれが魔術だ。遅くなったが、これで信じてもらえるか?」
得意顔で晋一郎を見るヨシノ。
どうやら相当な負けず嫌いなようだ。
「信じる。信じますよ」
これ程のものを見せられて今更否定のしようもない。
降参したように晋一郎はただピラピラと手を振ることしか出来なかった。
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