若菜 晋一郎

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「ふう。随分と遅くなったな」 夜中の住宅街。 等間隔に設置された街灯に沿うようにして歩く学生服姿の少年、若菜 晋一郎(わかな・しんいちろう)は腕時計に視線を落とした。 「ったく仄さん人使いが荒いんだっつの。お陰でこんな時間だよ」 時刻は午後11時58分。 本来ならば、とっくにバイトが終わっている時間である。 長引いたバイトで疲れ果てた晋一郎の頬を、容赦なく冷たい風が叩く。 真冬、しかも夜ということもあり、気温はかなり低い。 「あぁ寒い。寒いよなぁ?」 疑問符のついた言葉を発するものの、答えてくれる者はいない。 それもそうだ。 住宅街とは言え、住宅の数も疎らなことに加えて近くに繁華街もない。 すなわち通行人がいるとすれば、それは仕事か学校帰りの者くらいなものだ。 ゆえに、晋一郎の周辺には人っ子一人見られなかった。 しばらく歩くと、晋一郎は公園に行き着いた。 この界隈に住む子供にとって唯一の遊び場となっているので、毎日のように人で賑わっているが、流石に深夜になると寂しさを醸している。 晋一郎は不意に歩みを止め、周囲を見回す。 「しょうがない。時間も時間だし早く帰るか」 誰もいないことを確認し、公園に足を踏み入れる。 昔からこの公園の横には緑化目的のためか、林が隣接している。 晋一郎はその林の茂みの前で再び足を止め、誰もいないことを確認する。
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