1283人が本棚に入れています
本棚に追加
「変な杖だな。一体何に使うんだよ」
訝しがりながらも、晋一郎は杖を拾いあげる。
だが、何やら下方に重みを感じ、上手く持ち上げられなかった。
「何か……重いぞ?」
視線を重みがかっている箇所に向ける。
「…………」
思わず晋一郎は絶句した。
そこには、杖を放すまいとしっかりと握られた手があった。
その手は、茂みの中から突き出ている。
「…………ッ」
晋一郎は息を飲んだ。
少しばかりの好奇心と、それを軽々と凌駕する恐怖心に苛まれながら晋一郎は茂みを掻き分けた。
ライトを照らす。
杖を握っていた主は、小柄な少女だった。
防寒対策かは定かではないが、漆黒のマントを全身に纏う少女である。
「―――ッ!!」
晋一郎は無意識に叫び声を上げそうになるが、土壇場で口元を押さえ込み何とか抑止した。
別に少女を見て、驚いたのではない。
少女の身体から流れる紅い液体を見て、驚愕したのだ。
少女の左肩から右脇腹にかけて一閃された跡があり、そこから止めどもない血が噴き出していた。
黒いマントもあちこちが血によって紅く染まっている。
(お、落ち着け俺)
大量の血を目の前に気を失いそうになる。
だが、まだ出血しているということは生命活動が行われているかもしれない。
そう解釈する晋一郎に、卒倒している間などなかった。
最初のコメントを投稿しよう!