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「あ~!! くそ!!!」
頭をかきむしり、晋一郎は決意した。
このまま放っておくことなど出来ない。
それならいっそ、自分が罪を被ってやる。
「ちょっと待ってろ。すぐに助けを呼んで来る!!」
だが、走り出そうとする晋一郎を抑止するように、少女の手が晋一郎の腕へと伸びた。
「だ……めだ。行、く……な」
それはあまりにも弱々しい力。
だが、晋一郎に必死にしがみついている。
「おい!! 大丈夫か!? 少しの辛抱だからな。すぐに救急車を――」
「それは……ダメ……だ。ば……れる。私の……ことは……い……いから……捨て置け」
喋り終えると、少女は再び吐血する。
口を開くことさえ辛いはずなのに、何かを伝えようと、必死に晋一郎に語りかける。
「――ッ!! もう喋るな! 大体血まみれの奴を目の前にして見過ごせるわけないだろ」
「…………」
半開きの瞳が晋一郎を捉える。
次第に閉じていく瞼とは裏腹に、少女の口が動いた。
発声はしてないものの唇の動きだけで、晋一郎は彼女が言いたいことを把握した。
「……くそ。そもそもバイトが長引いた時点で良くないことがあると予想してたんだが、これは、かなりの厄介だな」
半分諦めたのか、晋一郎は小さく笑う。
そして、少女を抱えて、勢いよく走り出した。
勿論杖も一緒だ。
「あんたに言われた通りにするんだからな。勝手に死ぬなよ」
極力少女を揺らさないようにと、気を配りながら晋一郎は獣道を走る。
やがて、晋一郎は林を抜けて再び住宅街に躍り出た。
同時に、目的地へと到着する。
目の前に建つ、木造アパート。
それこそが、晋一郎がねぐらとしている山中荘である。
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