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「な~んか妙な杖なんだよな。よく分かんないけど」
ちょっとした威圧感を感じながら、晋一郎は杖を持ち上げる。
多少重量があることを除けば別段変わったことのないただの杖だ。
「これであの子の傷を治したまへ~」
少女に向けて、呑気に杖を振る。
「………はぁ馬鹿らし。俺ってば何してんだろ」
神頼みと言ったものか。
無神論者である晋一郎でさえも神に縋ってしまうほど切羽詰まっていた。
「はぁはぁ…」
次第に荒くなる少女の息遣い。
治療の仕様がない傷。
流れる血は布団をも紅く染めはじめた。
「お、おい。大丈夫か!? くそもう耐えられん。悪いが救急車を呼ばせてもらうぞ」
晋一郎の手が黒電話へと伸びる。
だが、ダイヤルを1、1と回した時点で降って来た拳によって電話機が木っ端微塵に砕け散った。
「へ?」
唖然とする晋一郎。
視線を横にスライドさせると、少女が恨めしい表情で睨み付けていた。
「…何度言えば分かる。そんな物呼ぶなと言っている」
やけに鮮明な声色で喋る。
そして、独り言を呟く少女はゆっくりと立ち上がる。
「そうか。貴様はあいつらの仲間か。私に追討ちをかけに来たのだな。忌々しい奴等め」
「え、ちょ…」
「何、遠慮はいらない。私は負傷したからと言って貴様らごときに遅れは取らんさ」
「ッ!!」
血まみれで立上がり、尚且つ不敵に笑う少女に晋一郎は恐怖を覚える。
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