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……そうだよ。
あたしは、あたしの、名前は。
「雪乃、だ」
次の瞬間、目の前の光景が弾けるようにして消えた。
「……」
「思い出されましたか?」
床、壁、天井、窓枠、カーテン。
もうこの部屋は真っ赤だった。あたしの、血なんだろうか。
「貴女は1週間前にお亡くなりになっているのですよ。
その死に哀しみと絶望を感じ過ぎて……心が遺ってしまっているのです」
あたしは喉に触った。
うわ、ぱっくり裂けてる。
お母さんが、あたしを刺した跡。
あたしの、死の証。
「……あたし、ユーレイなの?」
「在り来りな言葉で言えば近い例えですね」
男はにこり、と微笑んだ。
ぽたん。
天井の赤から、水滴……いや、あたしの血?が……垂れて、あたしの頬についた。
「貴女もお兄様も……家族想いだったのですね。
ただ、お母様は旦那様を亡くした哀しみを貴女とお兄様と一緒に居る時間を得る事で……埋めたかったのでは?
……そう、きっと家族全員で居る事を何より望んでいらっしゃった……」
男は跪づき、血溜まりにへたりこんでいたあたしに手を伸ばした。
「だから、みんなで一緒にいたかったんだ……」
お父さんは交通事故で死んだから。
お父さんが死んだ時のお母さん…見てられなかったな……。
お兄ちゃん、あたし、お母さん。
皆死ねば――
皆、一緒だよね。
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