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「わかってる、わかってるけど……」
オレは歌いたいんだ。
「……本当はこの仕事が終わってから言おうと思ってたんだけど」
「え。何すか」
土屋さんが出したのは……さっきの書類とは別の紙。
それと一緒にあるのは……CD、と……オレのノート?
「これ……」
「この前エイジが作った曲が気に入られてな。プロモ撮らないかって話が来たんだ」
――ガタンッ!
安いパイプ椅子が後ろに弾け飛んだ。
「ちょっ、お前っ……」
「マジ!?マジっすか土屋さんッ!」
ものすげぇ興奮して、土屋さんの肩を掴んでガクガク揺さ振った。
だってこの前作ったばっかの曲だぜ!?もう聴いてくれた人がいて、しかも気に入ってくれて!
プロモだぜ!?
「落ち着けっ、て……エイジっ」
「あ、すんません」
あんまり揺さ振ってたもんだから、土屋さんの眼鏡はズレて、顔色は悪くなっていた。
やべ、やり過ぎた?
「いいか?その前の仕事もちゃんとやれよ?」
「あったり前だろ!」
初めて、と言ってもいい"音楽"の仕事。
それをフイになんかする訳ねぇ!
……撮影する前日の夜……。
遠足前の小学生の如く全く眠れなかったのは、内緒の話だ。
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