追い風

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アメリカに来て1ヶ月たった。 英語もほとんど話せるようになった。 ビルの中に居る人も全員がじゃないけれど好意的に接してくれて居心地が悪い瞬間は無かった。 ビルの中で歳が近い人とはよく話すようにもなった。 英語の講師の名前はイリー。 金色の短い髪の毛の女性だった。 ビルの周辺の事は全てイリーとビルの中に居る歳の近い人達に教えてもらった。 1人で遠出はまだ出来ないけれど少しずつ"アメリカ"という枠の形がはっきりしてきた。 ビルの周辺はカフェや服屋、公園などと日本と同じような光景に溢れている。 「真央、こんにちは」 「おはようイリー」 今はイリーの普段の仕事場に居る。 イリーはドレスを作る仕事をしていた。 「ドレスを作るって言っても仕事はいくつかに別れるの。私はパターンナー。デザイナーは違う場所で仕事をしているの」 イリーはこっちの仕事もしながら夜は家庭教師のバイトをしていて働き詰めの毎日だった。 "辛くないの?" そう聞くとイリーは笑顔で答えた。 "好きって思えた瞬間を大切にしていれば辛くても大丈夫なのよ。この仕事と職場が何よりも好きだわ" 仕事に誇りを持っているイリーにとても憧れた。 日本に居た頃私の周りはイリーに似ている人達ばかりだった。 「やってみるかい?」 ニット帽をかぶった男性に言われる。 未だにいきなり英語で話し掛けられると返事に時間がかかる。 「いいの?」 下手な英語で返した。 「もちろん」 大きな赤いレースが目の前に置かれる。 持たされたハサミは思ったより重かった。   「疲れた?」 「すごい疲れたよ……」 イリーと一緒に歩きながらビルを目指す。 右手にハサミの跡が残っている。 指先が痺れている。 あのあとビーズ刺繍というのもやらせてもらった。 「楽しかった?」 「…うん」 指先を揉みながら答えるとイリーが言った。 「真央も早くやりたい事が見つかればいいね!」 「そうだね……」 自分がやりたい事なんて 考えた事もなかった。 日本に居た時 色んな事に頭が回ってて 色んな事が ありすぎて…… 空に浮かぶ月を見てふとサンの事を思い出した。 彼のようになりたい物が見付かるのは どれぐらい先なんだろう 私とイリーの長い影は街に吸い込まれて行く。 背中を汗がつたった。
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