追い風

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歌詞カードは1曲の途中から破れている。 ケースの中に破れた所から先の歌詞カードが無い。 段ボールの中には何も入っていない。 まあ、無くても曲は聴けるし…いっか。 段ボールを畳む。 「この段ボールどこに置いといたらいい?」 「ああ、じゃあ持っていくよ」 お父さんがスーツを羽織りながら言った。 いってきます、と言ってバタンと扉が閉まる。 TVからやけにうるさい司会者の声が聞こえた。 ソファーに座る。 「何これ」 白く光る紙のような物が椅子と背もたれの間からはみ出ている。 ほんの、1ミリ。 それを爪で引っ張るとそれは写真だった。 「お母さん………」 お父さんが左に立ち お母さんが右に立っている お父さんの右手はお母さんの手を握っていた。 左腕の中には、赤ちゃん。 ……きっとこの赤ちゃんは 私だ…… 私はその写真を机の上に置く。 この1ヶ月の間に、私はお父さんに自殺しようとした理由を聞いた。 やっぱり、借金だった。 借金の額に失望して 辛くて 死にたくなったんだと "どうせ1度失いかけた命なら馬鹿なりに頑張って生きてみようと思ったんだ 死にかけたんだ これ以上落ちることが無いならはい上がるだけだ 成功している人間は落ちるのが怖い でも父さんはもう落ちたから何も怖くないんだ" お父さんは病院で目覚めた時1番に私の事を考えた、と笑みを浮かべて言った。 それ以上に落ちようがないなら はい上がるだけ 私はどこにはい上がればいい? そもそも落ちているのだろうか 落ちていたとしてどこに? アメリカに? 違う 私が落ちたのは "私"だ この後イリーから妊娠発覚の電話が来る。 「イリー!おめでとう!」 "ありがとう" 相手はイリーは仕事場の人だった。 あの、私にパターンナーの仕事の内容をさせてくれた男の人だった。 "今から彼の家に行ってくるわ" 「わかった……また電話して?」 "もちろん!" 電話が切れる。 妊娠、と聞いて霧架の事を思い出した。 霧架はきっと、私がロスに来たのを知らない。
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