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どうしよう?
あの日、空港には霧架と霧架の母親が居た。
このビルで働いていたりしてないかな?
視線をテレビ画面に戻す。
お父さんに聞けば分かるだろうから聞こう。
相変わらず無駄に騒いでいる司会者。
音量を下げチャンネルを回す。
そのとき、病気と闘う少女を取り上げた番組に目がとまった。
「…おば…おばりあん…?何て読むの?」
"Ovarian cancer"
……これは確か
"卵巣がん"という病名
画面の中で少女はうめき声をあげ必死に病と戦っている。
5歳6歳程の小さな子供だ。
あんな小さな体で必死に、必死に……生きようとしていた。
卵巣がんとは簡単に言えば転移しやすい悪性腫瘍の事。
初期症状のサインに気付くことなく、だいぶ進行した状態になりやっと気付く病気だった…はず。
初期症状に気付くことがないというか、初期症状のサイン自体がほぼないから気付きにくい。
「……診断受けようかな……」
自分の体を気にしたのは今が初めてだった。
私は黙ってテレビ画面の中の少女を見つめる。
少女に髪はない。
布団をにぎりしめている手も小さい
けれど確かに力強かった。
しばらくすると、机の上に写真は無かった。
テレビの隣のスペースに写真たてを置き、その中におさまっていた。
「お父さん、おはよ」
「ああ、おはよう」
「ねえ、このビルで働いてる人の名前リストみたいなのある?」
「探したらあるだろうけど…今は持ってないぞ」
「そっか……あのね、井門っていう人居ない?」
「井門?日本人か?……聞いた事無いな」
「そっか、ありがとう」
そう簡単には見つからないだろうとは思っていたけれど。
住民表なんて興味本位でくれって言ったってくれないだろうな…
「探してるのか?」
「うん。友達が母親と一緒にロスに居るから…
でも私がロスに来た事まだ伝えてなくて」
なるほど、とお父さんが頭をかく。
こうしてみたら公園のベンチに座ってぼーっとしている普通の人なのに…
そもそもお父さんってこのビルの中で何?
知らなかったことに気付く。
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