肌色

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「真央、気分はどうだ?」 食べようとしたりんごを机の上に置く。 「分かんない…でも、元気だよ」 笑ってみせるとお父さんは安心したようにため息をついた。 「また来るよ。」 お父さんが病室から出ていく。 私は手を振るとベッドに潜った。 今日から抗がん剤を使う。 どんな副作用が起こるかはわからない。 「髪の毛…抜けちゃうのかな…」 白いシーツに倒れている毛先を触った。 腫瘍が思ったより大きくて手術の時の体への負担を減らすために腫瘍を縮ませてから手術をするらしい。 "癌" 自分に無縁だと思っていた。 突然、本当に突然歩み寄ってきた。 カサッ ……? ベッドの上で何かが擦れるような音。 潜っていたベッドから頭を出す。 「……うわ」 ベッドの上にはサイズが大きめの橙色の紙飛行機。 肌色ともいうのかな 「どっから入ってきたんだろ」 ここは、3階だ。 すぐ横にある窓を開け、下を覗くと小さな女の子が手を振っている。 きっとあの女の子の飛行機なんだろうな そう考えた私は紙飛行機を窓の外に飛ばした。 女の子は紙飛行機を追いかけていく。 その途中、偶然その場に居たナースにぶつかりこけていた。 …入院してるのかな… 飛行機に追い付いた女の子は私の方を見てにっこり笑いながら飛行機をほお擦りしていた。 私も笑って手を振るとさっきの何倍も早く手を振る女の子。 「佐野さ~ん、抗がん剤入れる用意始めますね~」 いつのまにか居たナースは点滴の容器に似たものを取り出しその容器に文字を書いたりしている。 「副作用ってどんなの?」 「抗がん剤の?…そうね…最初は発熱するだけかな。 どんどんきつくなっていくと思う」 悲しそうにナースは言った。 「後々きつくなるって?」 「何度ももどしたり…髪が抜けたり、食欲が無くなった」 「…そっか…」 カチャカチャとまた作業を再開するナースに私は窓の外に居るさっきの女の子を見つめながら言った。 「ナースさん」 「ん?」 「可愛いニット帽買ってきてよ」 わかったわ、そう言ってナースは力無く微笑んだ。
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