肌色

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外が暗くなって来る。 医師が1人とナースが2人私のベッドを囲んでいる。 「こんな囲まなくたって別に逃げないよ……」 「ははは、逃げるなんて思っていないさ。安心するかと思ったんだ」 「安心?」 医師の意味深な発言に返す。 「人は不安なとき周りに人が居れば安心するんだ。 たとえば君が今凶悪な殺人鬼に追われていて逃げ回っているとする。 隣に誰でもいい。誰か居たらほんの少しは緊張や不安感が解れるだろう? 人が居なくて安心する状況は自分が少し悪知恵を働かせている時だ」 医師が淡々と話す。 「人が居なくて安心する状況? 空き巣とか?」 「例えばね」 医師はそう言うと注射器を取り出し、私の腕に打った。 「じゃあ抗がん剤入れますね」 反対の腕に何かがスーッと入ってくる感覚がした。 「気持ち悪いのはこの初回だけだ。少し我慢してくれ」 すぐに抗がん剤が反応したのか天井やナースの体のラインがぐにゃりとまがり、ぐるぐる回った。 ここまで頭がおかしくなったのは初めてで、驚く前に物凄い違和感が押し寄せる。 「……ッ…!!!」 気持ち悪い。 吐いたら今以上頭がおかしくなりそうな気分だった。 「目を閉じて」 医師の声が聞こえる。 私は目を閉じた。 「目は開けずに横になって下さい。」 少し楽になったところでナースの声がする。 「気分の悪さが無くなったら目を開けてナースコールをしてください。12時を回っても気分が良くならないようでしたらまた来ますので」 私は目を閉じたまま頷くと3人分の足音が病室の外に出る音がした。 下腹に手をやる。 物凄く、膨らんでいる。 これは腹水が溜まっているのもあるらしい。 卵巣がんの時の症状の1つだ。 …怖い… 下腹だけがぽっこりと膨らんでいる。 張っていて最近は常に痛い。 入院する前の方がまだましだったよ…… これから毎日のように私の身に起こるだろう薬の副作用の事を考えると、気が遠くなった。 ふと紙飛行機の事を思い出した所で頭痛がし始めたので一旦思考を停止させる。
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