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2学年の教室は、学校の最上階にある。
そして、2年6組の麗のクラスは、階段のすぐ目の前だ。
階段を少し登れば、すぐに屋上である。
麗は、その屋上がすごく好きだった。
屋上に出入りするのは禁止されており、誰も来ないからである。
でも、なぜか鍵はいつも空いていた。
「校則は守らないくせに、こんな恰好の場所には来ないなんて。みんないい子なんだか、悪い子なんだか。…次は世界史かぁ。まぁまだましな授業ね。それにこのあいだなん……」
麗はベンチに座り、空を見上げながら、時には屋上から見える眺めのいい景色を見渡しながら、小声ではなく、はっきりとした声でひとり、独り言を言っている。
まぁ、いつもの事だが。
「それでその先生がどうしたの?」
「ひゃっ!?」
八田が屋上の入り口の前に立っていた。
1年半、屋上に毎日来ていて、誰かが突然入ってきたのはこれが初めてだったから。
前に1度、カップルがイチャイチャしながら入ってきたことはあったが、こんな音もせず、気配もなく、人がそこにいることは、経験がない。
麗は驚きと恥ずかしさでいっぱいになった。
「いつからいたの!?」
「次は世界史かぁ、ってあたりからかなぁ。」
八田は麗のもとへ歩いて来た。
「ほとんどはじめからじゃない。」
「えっ?」
「なんでもないです。」
麗は恥ずかしそうに俯いた。
「ここ、よく来るの?」
「毎日……。」
「へぇ。誰も来ないの?」
「禁止されてるからか、私が毎日ここにいるのを知ってか知らずか、誰も来ないです。」
「そか…。」
麗は立ち上がって、丘の見える方へ歩いていった。
少しの間、風を楽しんだかと思うと、
休み時間もそろそろか、と左手の腕時計を確認し、八田とすれ違う様にして、
屋上から出て行こうとした。
「ねぇ!!」
八田が、ドアノブに手をかけた麗に話しかけた。
「なんで、俺に話しかけないの?いちお、転校生だし。」
少し間をおいて、麗が答えた。
「……同じ年頃の人間に興味なんかないの。ましてや男には。ただ、それだけ。」
ドアを開け、出て行こうとする前にまた一言、麗は言った。
「ごめんね。冷たい女だって思ったでしょ?ハハッ。私、他の子みたいに器用じゃないから。じゃ…」
少し微笑みながらそう言うと、麗は屋上から出て行った。
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