91人が本棚に入れています
本棚に追加
授業が終わる度、麗の隣の席は生徒でいっぱいになった。
6組の生徒だけでなく、他の教室からも生徒は興味深々に集まってきていた。
もちろん麗は屋上。
と言いたいところだが、10分間しかない休み時間の度に毎回屋上に行くのはさすがに面倒だ。
ではどこにいるかと言うと、自分の椅子と読みかけの小説を持ち出し、1人ベランダに。
この学校のベランダは、隣のクラスとは繋がっていないため、ベランダを廊下代わりにする生徒もいないし、クラスのほとんどが八田のもとにいるならば、ベランダに出てくる生徒なんて、ほぼいない。
八田が注目を浴びている今だけは、屋上の次に安らげる場所だ。
もうすぐ帰りのホームルームを迎えるその頃、八田は質問責めに合っていた。
「響くんって呼んでいい?」
「お前どこ住んでんの?」
「あの有名な私立校だったんでしょ?勉強教えてよ。」
頭の悪くない八田も、
さすがに答えきれない。
八田はふと、また麗のことが気になった。
隣にはいないし…
「ベランダ?」
人混みの隙間から窓を見ると、麗の後頭部が見えた。
八田はごめん、と一言いって、ベランダに顔を出した。
そこには、
右耳の後ろひとつにまとめた髪が胸まで垂れ、
結び目まで届かない、少し長めの前髪と、
メガネをかけ、文字をたどる目線。
ブレザーを脱ぎ、体を包む柔らかいセーターと、
膝が見えるだけの、短すぎないスカート。
そして…
足はベランダの柵の上。
「えぇっ!?」
麗が八田をみた。
「八田くんか。何驚いた様な声出してるの。みんながうしろで待ってる。」
何驚いた様な声出してるのって、そりゃ、イメージとか想像と違いすぎる、と八田は心の中で思った。
「意外に大胆なんだ…。」
八田は小さく独り言を言った。
すると、後ろからポンと肩を叩かれた。
「八田、気にすんな。あいつ、いつもあぁやって独りでいるんだ。可愛くもねぇ。」
「そぉそぉ。静かにしてるくせに、態度だけはいつもデカいの。」
「あんなのと一緒にいたら、お前までカビ臭くなるぜ!!」
そう言って、クラスの奴は笑った。
「ほらぁ、帰りのホームルームはじめるぞぉ。当番、はい、日誌。席つけぇ。」
先生が入ってくると同時に、さっきまで八田のもとへうるさく集まっていた生徒が、一斉に散らばっていった。
麗もまた、椅子を持って、自分の席へ戻ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!