始まりの話

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「純也~。遅刻するよ! 早く早く!」 「うるせーな。今靴履いてるとこだろ」 少しきつくなった革靴に、指を使って無理矢理足をねじこむ。 「靴。小さいの?」 「ちょっとな」 去年の春に買った革靴の窮屈さが、自然と身体の成長を表している。 冬になり、雪がバカみたいに積もるこの地方では、冬は革靴だけでなくスノトレやブーツの着用が許可される。 そのため、冬は革靴を履くことがなかった。 「じゃあ、今日の放課後にでも買い物行こうか?」 「ああ。そうだな」 そう言って、立ち上がる。 そして、居間にいるおばさんとおじさんに 「行ってきます」 と言うと 「行ってこいへ~」 と、元気な声で返事が帰ってきた。 家を出る。結花が俺の半歩後ろをとことことついてくる。 振り返って見ると、何やら頬を薄く赤色に染めている。思わず 「どうした?」 と聞くと、立ち止まり、遠慮がちに 「手……繋いでこ?」 と唇を震わせた。 付き合う前は、積極的だったくせに、たかが手を繋ぐくらいで恥ずかしがる仕草が可愛らしくて、俺は自然に微笑が零れた。 そして、小さく温かい手を握る。その手はあまりに柔らかくて、一瞬心臓がドキッと高鳴った。 「えへへ」 と、微かに結花が笑い声を漏らす。 俺は妙に恥ずかしくなり、いつもよりさらに無口になる。 だが、そんな俺に関係なく、結花は俺の手を時々強くギュッと握りながら、俺にひたすら話しかけてくるのであった。
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