始まりの話

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家に着き、しばらくすることもなく、本を読んでいると、玄関の方から 「お邪魔しまーす」 と、結花の声が聞こえてきた。 そして、階段を登る音が途絶えると、部屋の扉が開かれた。 「ヘヘッ、暇だから遊びに来ちゃった」 そう言って微笑む結花。 俺は読んでいた小説にしおりを挟み、本を閉じると 「そうかよ。とりあえず、隣座れ」 と言って、自分の隣にある床をぽんぽんっと叩いてみせた。 「うん」 頬を赤く染めて、結花はそう言いながら頷くと、俺の隣に移動して来てゆっくりと座る。 そして、俺の肩に頭を乗せてきた。俺はそんな結花の手の上に自分の手を重ねる。 「なんか……夢みたい」 「夢?」 「うん。だって、ちょっと前だとこんなこと全然考えられなかったから。今は凄く……幸せ」 その言葉を聞いて、なんだか少しだけ申し訳なくなる。 が、それ以上に結花のことが愛おしくなって、俺は結花の両肩を持って、俺の方に向かせた。 結花が俺の顔を見て、顔を真っ赤に染める。 去年より長くなった綺麗な黒髪。大きな二重の瞳。その瞳が潤み、ゆっくりと結花が目を閉じる。 俺は結花の顔に少しだけかかっている髪の毛の束を手で退けると、ゆっくりと結花の柔らかい唇に自分の唇を重ねた。 ピクッと、結花の身体が震える。そして、背中に結花の手が回り、キュッと抱きしめられる。 一分ほど唇を重ねて離れると、未だに赤い顔をした結花が 「ホント……夢みたい」 と言うと、俺の胸に顔を埋めた。そんな結花の頭を撫でながら、俺は結花にはっきりと聞こえるように 「夢じゃねえよ」 と、言うのであった。
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