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私は、その時祖母の家の裏の林を歩いていた。
何が目的というわけでもないのだが、とにかく一人になりたかったのだ。
どれ位歩いただろうか。不意に、空耳が聞こえた……気がした。
「オイッ、こら、振り向けよ!」
声につられて思わず振り返ると、そこには一人の男の子がいた。
GパンにTシャツ、日に焼けた肌。どこにでもいそうな、普通の男の子。
ただ、彼の手に茶色い花が握られていることを除けば。
その男の子は、人懐っこい笑顔を浮かべて、私に話しかけて来た。
「あんた、早希(サキ)だろ?七原(ナナハラ)早希」
名乗ってもいない自分のフルネームを言い当てられ、私はうろたえた。
「どうして…」
でも、彼は私のとまどいなど全く気にしていない様子で勝手に話を続けている。
「オレ、天使の望(ノゾム)。よろしくな。ちなみにこの花はオレの一番好きな花。チョコレートコスモス。本当にチョコレートのにおいがするんだぜ」
「……………は?」
楽しそうに話しているけれど、なんだかとてつもないことをサラッと言われた気がする。
…………天使って、どう考えても聞きまちがいよね?
「あー!!早希信じてないだろ絶対!!」
そんな私の考えが顔に出てしまったのか、望と名乗った男の子は不満そうにそう言った。
「だって…天使って男でも女でもないって聞いたことあるし…」
「あー、その勘違い結構多いよな」
「白い翼も見えないし…」
「それは…ちょっと事情があるんだよ!!」
どんな事情よ…と聞こうとして、私は、彼のペースにはまっていることに気がついた。
「なんで………」
「ん?」
彼は一瞬首を傾げて不思議そうに私を見たけれど、すぐに、あぁ、と納得したような顔をして言った。
「だってオレ、早希のことが好きだから」
「なっ…………!?」
何言ってるの、この子!?会ったばかりでそんなこと言って……!!動揺した私は、その子がなぜか始めから私の名前を知っていたことを忘れていた。
「うーん…やっぱ信じてないかぁ……よし、じゃあ、いつか信じてもらおう!てことで、またな!」
「えぇ!?」
気がつけば、その男の子の姿はなかった。
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