1、深夜の襲撃

6/48
前へ
/419ページ
次へ
「要らない」 ルシアンはそう一言いうと便箋を突き返した。 「なにッ!?」 兵士もそのルシアンの冷めた態度に動揺したように見えた。 元々、軍に徴兵ではなく、招待されるわけだから断る事もできる。 しかし、グローリー軍に招待されて断った人間など今まで一人もいなかった。 なぜなら、軍の一人として名誉と栄冠を与えられるだけでなく、軍の招待を受けられた家のものは、国から義援金が出たり、周囲に住む人間達からも一目置かれ、自分だけでなく、家族にも利益がある。 時には、軍の招待を得るため、必死で鍛錬を繰り返しているものもいる。 無論、ルシアンの先程までの毎朝の鍛錬はこの軍に入る為ではないが…。 「貴様、コレを断るとは大金を溝に捨てるようなものだぞ?正気で言っているのか?」 「要らんものはいらん、だいたい軍なんぞに入っても、喜ぶ家族なんていない……だいたい……」 そこでルシアンは言葉を詰まらせた。 「俺を捨てた非情なこの国の為に従事する気はない…」 ルシアンは小さく、されど強い威圧感を持った口調でそう一言いうと、兵士を憎悪の眼で兵士を睨みつけた。 「……そうか」 兵士はその眼力に少し怯んだように、一歩後ずさりした。 「理由はわかっただろ?早く帰ってくれ、正直軍の犬になりさがったアンタを見るだけでムカつくんだ」 「……」 それでも兵士はしばらく黙っていて立ち去ろうとはしなかった。 そしておもむろに口を開いた。 「…いや、こうなることは実は前々から知らされていた」。 「知らされていた?」 ルシアンは意外そうに答えた。 「あぁ、貴様を誘えば必ず断るだろうから軍の駐屯地まで呼び出せ、という指令も受けている。」
/419ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2882人が本棚に入れています
本棚に追加