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撮影
―翌日―
強い日差しを浴びて夏のイメージに合う絶好の撮影日和の中で…
人気の少ない浜辺でカメラマンにスタイリスト、メイクアーティストが浜に立てられたテントの中で準備をしていた。
中には器材なども置かれているが、風に乗って飛んでくる砂が積もる為にすべて布が掛けられている。
撮影はすぐに始められた。浜辺を黒いスラックスに白いワイシャツを着た晃司が歩く。色素の薄い長い髪をなびかせて、陶器のような白い胸元を露出させている。整えられた顔をまっすぐに浜辺の終わりを見つめるようにして歩くだけ。
なにかの清涼飲料のCMらしいから夏らしく海で撮りたかったのだ。
撮影は昼から始めて夕方には完了した。
海に日が沈み始めると、スタッフは荷物をワゴン車に片付け始める。
「あーあ、やっと終わった…っ」
その中、渋谷が椅子から立ち上がって、テントの中でメイクを落として貰っている晃司の方に歩いていく。
「何しにきた?」
表情を変えずに美女のメイクアーティストのそばで鏡を見つめる晃司がいた。
渋谷がくると、嫌そうに口を開いた。
「あれ、拓ちゃんは?」
周りを見渡した渋谷は、泉の姿が見えないことに気付き、晃司に聞いてみる。
「浜辺で走ってる…」
メイクを落として、近くにあるタオルで汗を拭きながら答えた。
「へ?走ってるっ……あっいた!」
渋谷は、テントから顔を出して浜辺を見渡した。
近くには片付けをする撮影スタッフがいる。
そこから離れた辺りには海水浴の人々がいる。
その中に深く帽子を被って、サングラスを掛けてTシャツにジャージでランニングをしている姿があった。
「なんだ、渋谷もきたのか?」
ランニングを終えてテントの所まで走ってきた泉は、首に巻いたタオルで顔の汗を拭い、渋谷の姿を見つけた。
「拓ちゃん…何でランニングしてんのよっ!」
渋谷は、歩いてきた泉に詰め寄った。幾ら晃司の仕事で来たとはいえ、筋トレをしなくてもいいと思ったからだ。
「終わったの?…泉っ」
二人の話し声にテントからサングラスかけた晃司がでてきた。渋谷の前にいる泉の姿を見て、歩み寄る。
「ああ…お前は終わったのか?」
晃司が見えると、視線をそっちに移した。
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