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「待てっ…何処連れてく気だ!…」
髪を風に泳がせ長い手足を動かして浜辺を走る晃司は、吠えながら二人を追い掛ける。
「せっかく、熱海の海に来たんだし楽しまないとねーっ!」
その様子を見ていた渋谷は、泉の腕を引いて少し離れた場所の海の浅瀬に入っていく。
「うわっ…冷てぇ―っ」
靴を履いたままで海水に足を入れた泉は、冷たさに声をあげた。
「やっぱり、夏は海よねーっ」
心地良い冷たさに足だけを海水に浸して、バシャバシャと足を動かしている。
「そうだな…えっなんか…うあっ」
泉も足首までを浸して歩いていると、何かに躓いた。バランスを崩して前に倒れそうになったが、誰かに腕を捕まれて支えられた。
「大丈夫っ…泉?」
その人物は走ってきた晃司だった。心配そうに泉の顔を覗き込み、掴んだ腕を放そうとしない。
急いできたのか来ていたスラックスと白いシャツに大げさな程の水の飛沫の染みがあり、うっすらと透けて白い肌が見える。
「大丈夫…石かなんかに躓いただけ…」
落ち着いてまわりを見た泉は、晃司の手を振り払った。いくら人が少ないとはいえ、撮影のスタッフもいるからだ。
「拓ちゃん、大丈夫?」
心配した渋谷がバシャバシャと水音を立てて走ってきた。
「ああ…コイツに助けてもらったから…」
近づいてきた渋谷に返事をして、オレンジ色に染まり始めた海に視線を向けた。
「こんな景色は東京じゃあ見られないからね…」
夕暮れの海に見とれている泉と晃司の所まで走ってきた渋谷は、東京では見られない綺麗な夕日に言葉を洩らした。
「ああ、綺麗だな…」
晃司は、隣にいる泉を愛しそうに見つめていた。
夕日に照らされる姿が神秘的に思えた。
「おい、カメラ持って来いっ…」
その姿にカメラマンが気付き、さっきまでの晃司とまったく違う表情に呆気に取られた顔をしている。
普段は感情を表に出さない為、浜辺を走ったりする姿など想像できない。
そして、片付けていない撮影カメラを取り出して、浜辺を走る晃司の姿を撮り始めた。
夕日に照らされたオレンジ色の浜辺を駆ける晃司の姿は、CMの一部に使われることになった。
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