2、秘密

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「帰蝶、そなたは嫁ぐが、嫁がぬ。  ……解るか?」 「蝶、ですか……?」  帰蝶は迷いながらもそう道三に尋ねた。  蝶とは、身代わりを指す。  道三は口元を器用に片側だけ持ち上げて見せ、頷く。  それは、肯定だ。 「では、わたくしは……」 「安心せよ。それもひと時……いずれ蝶もここへ帰ってくる。  そうすれば今度は帰蝶、そなたが嫁ぐ」 「つまりは、蝶は蝶でも間諜……ということですね?」 「そうじゃ」  流石は我が娘、と道三は満足そうに頷いて鉄扇を閉じる。  バシリと鋭い音が響き渡る。 「お前の蝶は、忍ぶ者。……そして、滅する者でもある」 「つまりは、この婚儀は……」  帰蝶は口元を袖で覆いながら小さくそう口にした。 「信長殿を、……尾張を滅する蝮の策よ」  道三は笑う。  高らかなそれは、いささかも策に不安を抱いていない。  この世は混沌として乱れている。  しかし、だからこそ領主にまでなることが出来た。  次に狙うは、隣国の制覇。  そして天下統一の取っ掛かりだ。  笑う父親に帰蝶は頭を垂れた。 「どうした……」 「父上、その任……わたくしに任すことはお考えになりませぬか?」 「な、に?」  帰蝶は性急に言葉を紡ぐ。 「その娘、少なからずこの帰蝶とも、斉藤家とも関わる者であるのでしょう?」
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