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も施されている。そして、上等の小袖に腰巻を纏って端座する姿には品位すらにじみ出ている。
しかし灯凪はひたすら退屈していた。
明朝に到着した金華山の館では初老の奥侍女が灯凪を迎えた。
そして、風呂に入れられ、着物を替えさせられ、髪を丁寧に梳られた。
里娘のようだった顔には紅が刷かれ、白粉が仄かに塗られる。
すると灯凪は別人のように垢抜けて見えた。
「これは、本当に私だろうか……」
鏡に映っていた顔を思い出しながら灯凪は考える。
持っていることを許された懐剣を膝に乗せてそれを両手で弄ぶと不思議と気分は和む。
自然とほころぶ頬に笑みが浮かぶ。
そこへ忍び寄る影があった。
そしてその肩に不意に軽い重みが乗せられる。つまりは、手が。
「……っつ!」
すばらしい反応速度でもって、すぐさま振り向き様に手刀を叩き込もうとした灯凪は相手の顔を睨みつける。
しかしその顔はふと緩み、手からは力が抜ける。
「あ……」
目の前に居る懐かしい姿を灯凪はぽかんと口を開いたまま凝視する。
それを見ていた訪れ人は低く喉を鳴らして笑った。
「見違えたぞ、灯凪……久方ぶりじゃな」
わしゃわしゃと髪を撫でられる感触に灯凪は更に確信を強めて叫んだ。
「じい……!?」
そう。
じいは、忍びの長であり灯凪の育ての親、そして忍びの術を教え込んだ人であり、灼景の祖父でもある。
忍びの里には両親ともが任務で命を落としたり、拾われてきた天涯孤独の子供が多かった。
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