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甘っちょろいことを言っていればこちらの命も危ないことは灯凪は承知の上だ。
「灯凪よ。お前……自分の出自は知らまいな?」
「……知らない」
じいの問いに灯凪は即答する。
灯凪は幼い頃から記憶に父母の姿は無い。物心着いたころには灼景たちと里で遊び、生きていた。
でも、親の顔を見たことの無い子供なんて珍しくも無かったから気にしないで居られた。
灼景も両親は居なかったし、他の子供も片親だったり親の顔を見たことの無い子も多かったから全く疑問にも思わず生きてきた。
きっと、拾われたんだと教えられたとしても。誰かに「これがお前の親だ」と言われたとしても灯凪は疑いもせず信じて腕に飛び込んだだろう。
しかし、里の大人たちは何故か灯凪のこと関しては固く口を閉ざして問いをぶつけることすらも禁じられた。
きまって皆が口をつぐみ、一言でさえも口にはしなかった。
じいすらもまた今度また今度とかわされて、そのうちそんなことはどうでも良くなって聞くのをやめた。
だから、灯凪は己の出自について何も知らない。
「今日は、それを教えるべき日だ。灯凪……お前はここで生まれたのじゃ」
「こ、こで……?」
「そう。お前は美濃国、斉藤道三が娘……胡蝶だ」
「こ、ちょう……。私が、殿様の娘?」
じいは無駄なことはなにも言わず、大きく頷く。
灯凪は全く信じることが出来ず、口をぽかんと開けたままじいの顔をまじまじと見つめた。
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