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しかし、いくら見てもその顔は戯言を言っている顔ではない。
だからこそ、本当なのだと灯凪は理解する。
「道三様は、わしにお前を預けられた。……いつか、役に立つ娘になるよう育てろと」
「だから、私には親がいないのか?」
「だから、殿が父上だといったはずだぞ、灯凪。そして胡蝶はお前の本当に頂く筈だった名じゃ」
「では、帰蝶様は……」
「そなたの姉として生きるはずだった。しかし、これがお前の生きる意味じゃ。
尾張へ嫁ぐ姉姫を助け、より潤滑にことを進めるためじゃ。帰蝶様にはわしが技は見に付けさせた……じゃが、何分人を殺めたことなどは無い。だから……」
「婿殿を、殺めるのか?」
「そうじゃ……」
「なんで、そんなことを」
「全ては美濃のため、そしてひいては父君のためじゃ。そう急な話ではない。国を
手中に収めるにはことを起こすことが上策。
そして、だからこそこれは少なくともお前が生まれし時にはもう出ていた話だ」
じいは静かに諭すように言った。
「では、私はそれだけのために忍びとして生きているのか……」
「そうじゃ。これがお前の生きてきた、生まれてきてよりの宿命じゃ。
姉姫に、刃を持たせたくないと考えるなら、それでも良い。そのときはお前が殺めてしまえば良い」
「つまり、私は予備の刀か……」
「道三様はまことに策士じゃ。先の先を考え、布石を打っておいでだったのじゃ。
姉と共に、信長を殺めてくるのじゃぞ?」
灯凪は目を閉じて考える。
迷うことは許されてはいない。
身分が知れたとしても、それは自らを縛っているものでしかないことは分かる。
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