1、始まりの文

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「い、いや……、その櫛がさ……」  紅い櫛には見事な細工がしてあって一目で高価なものだと知れる。  まるで、今にも飛び立ちそうな蝶がそこにあった。 「いいだろう?これは前に……ほら、遊郭で暗殺をしただろう?」 「あぁ、そんなこともあったな。貰ったのか?」 「うん。芳野って言うお姐さんにお礼だって」  嬉しそうに話す灯凪に、そうか と灼景は子供にするようにクシャクシャと頭を撫でた。  そして、梳き終るのを待ち灼景はまた、口を開く。 「次の命が夕刻に届いた」 「へぇ、何て?次はもう少し手ごたえがあればいいのにな」  灼景は、ただ無言のまま書を渡した。  いつもは決して他人には見せないはずの指令書を受け取り、訝しげに灼景を見ると、ただ見ろと灯凪を促す。 「いつもは駄目だって言う癖に……」  何だって今日は…と続けた灯凪を遮るように良いから見ろと、灼景は再度強く促してそっぽを向いた。 「……見ても怒らないのか?」 「怒るわけがない。それは、お前にだ。灯凪」 「私、に……?」  意外な答えに目を丸くした灯凪は、躊躇いがちに書を開く。そして、 「灼景。……これ、読めない」  漢字ばかりが並んだ書を手にそう訴えた灯凪に、一瞬動きを止めた灼景はそれまでの緊迫した空気を解き、わざと奪うようにして書を灯凪から受け取る。  そして優しい声を聞かせる。 「読んでやる」 「うん」 
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