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「い、いや……、その櫛がさ……」
紅い櫛には見事な細工がしてあって一目で高価なものだと知れる。
まるで、今にも飛び立ちそうな蝶がそこにあった。
「いいだろう?これは前に……ほら、遊郭で暗殺をしただろう?」
「あぁ、そんなこともあったな。貰ったのか?」
「うん。芳野って言うお姐さんにお礼だって」
嬉しそうに話す灯凪に、そうか と灼景は子供にするようにクシャクシャと頭を撫でた。
そして、梳き終るのを待ち灼景はまた、口を開く。
「次の命が夕刻に届いた」
「へぇ、何て?次はもう少し手ごたえがあればいいのにな」
灼景は、ただ無言のまま書を渡した。
いつもは決して他人には見せないはずの指令書を受け取り、訝しげに灼景を見ると、ただ見ろと灯凪を促す。
「いつもは駄目だって言う癖に……」
何だって今日は…と続けた灯凪を遮るように良いから見ろと、灼景は再度強く促してそっぽを向いた。
「……見ても怒らないのか?」
「怒るわけがない。それは、お前にだ。灯凪」
「私、に……?」
意外な答えに目を丸くした灯凪は、躊躇いがちに書を開く。そして、
「灼景。……これ、読めない」
漢字ばかりが並んだ書を手にそう訴えた灯凪に、一瞬動きを止めた灼景はそれまでの緊迫した空気を解き、わざと奪うようにして書を灯凪から受け取る。
そして優しい声を聞かせる。
「読んでやる」
「うん」
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