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灯凪は、暗闇の中から合図を送る人影に気づき、立ち上がる。きっと、迎えに来たのだろうと悟り、じっと灼景の顔を見る。
いつまでも、この友の顔を覚えておこうと。
何があろうとこの顔と声を思い出せば元気になれる……そんな気がした。
「灯凪」
その視線に応えるように顔を上げた灼景の目尻が赤い。
目元を気にする余裕も無い灼景は、懐から懐剣を取り出して、差し出す。
「……それは、お前の大事なものだ」
「そうだ。……母様の形見の品だ」
「灼景……」
それは受け取れないと首を振った灯凪の手に灼景は強引にそれを握らせる。
灼景の父母も忍だった。
彼らは、祖父に子を託して任務に出て、死んだ。
唯一生き残った忍が持ち帰った遺品が母の懐剣だった。だから形見が親だと、灼景はいつも肌身離さずそれを持っていた。
何かあるごとにそれに話しかけ、そして仲間に父母のことを話した。
何度も同じ話をする灼景に、周りのものはほとんど相手にしてはいなかったが、灯凪はその話が好きだった。
そして、灼景から語られるだけの灼景の両親が好きだった。
「お前が、死なないように、母様にお願いした。だから、お前がまた俺に返してくれ。……死なないと言ったお前を信じる。だが、約束がないと心配だ」
だから、預ける。と懐剣を握った灯凪の手を包み込むように触れて力を込めた。
「……分かった」
とうとう折れた灯凪に、灼景は嬉しそうに笑って立ち上がった。
「なら、これをお前の父様母様……それから、灼景と思って片時も離さずに持っている」
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